先輩からのメッセージ 「繋がり」のキャンパスライフ

中村 ひとみ(なかむら ひとみ)
ルーテル学院大学総合人間学部4年
視覚障害・難聴・四肢欠損

写真:中村 ひとみさん
中村 ひとみさん

96号 2017年7月25日発行 より


はじめに

 みなさんこんにちは。ルーテル学院大学の中村ひとみです。今回は、わたしの大学受験までの流れと、入学後実際にどのように学んでいるか、さらに授業以外の活動などについてそれぞれ書かせていただきます。大学生活は、人それぞれまったく異なるものでしょう。今回は、個人的な体験を書かせていただきますので、そのような視点で読んでいただければ幸いです。

大学選びと入試

 障害学生にとって大学の選択は、他の学生と違う点がいくつかあると思います。一つ目は、大学との連携をいかにスムーズに行うかです。私の場合はオープンキャンパスに何度も参加することで、大学の雰囲気やサポート体制などを肌で感じることができました。当然ながら障害学生に対するサポートについては、インターネットの大学のホームページには書かれていません。実際に大学へいって職員の方や先生方と顔を合わせて話をすることが、よりスムーズな連携に繋がるのだと、実体験から学びました。またこれを入学前にまなんだことが、入学後に向けてとても良いことだったと思います。
 二つ目は、障害による配慮についてです。私は点字による受験、1.5倍の時間延長、別室受験といった配慮の下で受験しました。また入学が正式に決まってからは、授業の際に必要な配慮や、高校在籍中に自分で工夫していたことなどを大学に伝えました。例えば、板書の内容を口頭でも説明してほしいこと、定期試験の時間延長などといったものです。
 私が入学した大学は、障害学生がとても多いため、受験から入学までの流れがとてもスムーズでした。別の大学を受験し入学している友人の話をきくと、大学それぞれにサポートの方法がまったく異なることがわかりました。また私が在籍していたのは特別支援学校の高等部ですが、大学進学者が多くいます。そのため、入学までの流れについて先生方が適切な意見をくださいました。とくに大学との交渉を学校が担ってくださったことが、その後大学とスムーズに連携で来た大きな要因であったと思います。心から感謝したいです。

キャンパスライフを把握するまで

 大学への入学が決まってから実際に始まるまでの期間に、キャンパス内とその周辺の歩行訓練を行いました。具体的にはキャンパス内の移動と、キャンパスの近くにあるコンビニや郵便局を単独で行き来できるようにしました。この指導は高等部の先生が集中的に行ってくださいました。ただこの期間は校舎の中に入ることができなかったので、入学当初はいつも周囲の人に聞きながら、教室間を移動しなければなりませんでした。教室の配置を覚えるまでには数か月もかかりました。
 私はキャンパス内にある学生寮に入っています。入寮の申し込みをしてから大学からの決定を知らされるまで時間がかかりました。そのため不安の内に寮生活を始めました。しかし他の寮生の受け入れが整っていたことで、少しずつ寮内を把握することができました。私自身高校までの間もずっと寮生活を送ってきたので、寮生活そのものに対する不安が少なかったこともはやく慣れることができた要因だと思います。とくに周囲の学生となんの繋がりも無い入学当初に、寮生という繋がりがあったことでいろいろと救われたこともあります。

授業にのぞむ

 私が在籍している大学では、障害学生担当の職員の方がいらっしゃいます。しかし基本的には障害学生とそれぞれの担当科目の先生が、直接やり取りして授業を進めています。具体的には、障害学生が最初の授業の時に先生に挨拶にいき、どのような工夫が必要かを伝えます。そしてそれぞれの先生の授業スタイルに応じて相談しながら進めています。先生に直接挨拶にいくのはとても緊張します。ですが、障害学生と先生が直接やり取りすることで、障害の特性、各人の得意・不得意、授業のスタイルに合わせた柔軟な工夫ができているのだと思います。
 授業を受ける中で充実感を感じるのは「知らない」ということを知ることです。先生の講義によって様々な新しい世界をしることができるのです。現代は情報化社会ですが、そもそもなにかを調べるためにも、キーワードを知らなければ調べることができません。新しい世界の「扉」の存在に気づき、学びの喜びを感じます。
 授業を受けるうえで大変なことは、大きくわけて二つあります。一つは「グループワーク」です。他の学生のやり方と自分のやり方とが大きく違うことを痛感させられるものです。アイコンタクトをとったり、一つの資料を見ながら話し合ったり、幾人かが同時に話をする場面では、私が参加するために何かしらの配慮が必要なのです。もう一つは資料の使い方です。私は先生から資料をメールで受け取り、パソコンを使ってそれを読んでいます。始めのうちは、授業の時に先生の話を聞きながら資料を読むという、他の学生と同じ方法をとっていました。しかしこのやり方では、資料の内容を追うことで精一杯で、授業のノートをとることができません。そこで今では授業の時には資料は読まずに、先生の話だけをきいてノートをとることに専念するようにしています。

図書館の利用

 私は大学の図書館で、視覚障害での配慮として次の二つを利用しています。
 一つは対面朗読です。専門書は点訳されているものがとても少ないのが現状です。したがって自分の専攻している分野の専門書を、図書館の職員の方に対面の形で読んでいただいています。対面朗読の利用はレポートの作成はもちろん、学びを深めることに繋がっています。
 もう一つは教材のテキスト化です。内容の濃い専門書では、読んでもらって耳できくだけでは理解できないものも多くあります。そこで図書館の方に、活字で書かれた書籍をテキストデータに起こしていただいています。テキストデータはパソコンの画面を音声化する視覚障害者用のソフトで読むことができるので、自分のペースで確実に読むことができています。視覚障害のある人でも、点字やテキストのような文字の方が理解しやすいか、音声の方が理解しやすいかは、人によってさまざまでしょう。さらに視覚障害者のための図書オンラインサービス「サピエ図書館」(注)は、大学での学びにおいてかかすことができません。

サークル活動から繋がる

 入学当初は他の学生との繋がりがほとんどありません。職員の方や先生方と連携を強化しても、円滑なキャンパスライフを送れるわけではないと思います。なぜなら学生同士のつながりを持たなければ、知識を増やすことはできても、人間性を深めることができないからです。
 初めて出会う他の学生は、私の「障害」にとらわれてしまい、義務的な関係になっていると感じます。教室移動での誘導や、出席簿の代筆をしてもらうことはよくあります。十分に感謝したいことですが、それ以上の関係になることはほどんどありません。端的に言えば「障害がある人は、私たちのような障害のない学生とはまったく違う」という印象があるようです。したがって友人関係を作ることが難しいと、私は感じざるを得ないのです。それは私にとってとても悔しいことでした。また私自身、自分から積極的に周囲の人に近づいていくのが苦手なことも大きな壁になっていました。
 そんな私が大学に馴染むためには、どうしたらよいのでしょうか?そこで私はサークル活動に入って他の学生と関係を造ろうと思いました。入学してすぐに聖歌隊に入りました。もともと讃美歌が好きだったのと、歌うことなら自分にもできるだろうとの思いからでした。聖歌隊は学校直属のサークルなので、学校の顔としての活動が多く、比較的忙しいサークルです。授業以外の時間は聖歌隊の練習、休日には聖歌隊の活動があり、というように、隊員と共にいる時間が多くなりました。
 また聖歌隊を選んだのにはもう一つの理由があります。私の大学には、障害学生をサポートするためのサークルと、点訳サークルがあります。しかし私はそのようなサークルをあえて選びませんでした。障害とは縁のない輪に飛び込んで「障害」を忘れたかったからです。
 聖歌隊での繋がりによって他の活動にも加わるようになりました。たとえばいくつかの委員会や、学内外での募金活動にも参加しましたし、学外の団体に所属することにもなりました。このようにサークル活動によって学びも深められて、なおかつ、いろいろな人との繋がりが生まれることは、大学になじむ大きな要因となるだろうと思いました。今でも人の多いところは苦手ですが、このような思いから、意識して人の輪の中に飛び込むようにしています。それが結果的に人間性を養うことにも繋がっていると思うのです。

写真:聖歌隊の様子
聖歌隊の様子

大学生活を振り返って

 自分の大学生活を振り返って、二つのことを挙げてみます。
 一つは、大学4年間を二つの期間に分けられるということです。1、2年生と3、4年生の二つです。まず1、2年生は前半と言えるでしょう。この時期はキャンパスのハード面・ソフト面を把握することがメインでした。障害のない学生と同じようになろうとしていました。「障害学生」から脱却しようとしていたのです。自分が努力することでそれが実現すると思っていました。次に3、4年生で、後半といえるでしょう。キャンパスライフにようやく慣れてきた頃です。授業の受け方も確立して、より一層学びが充実してきました。ここで自分なりに気づいたことがあります。それは自分が努力しても、障害者のままなのだということです。たとえ他の学生と同じ結果を出したとしても、それに至るまでの過程が他の学生とは違うのです。この気づきは、けしてマイナスなものだけではありません。「障害」も含めて「自分」なのだと受け入れることができたのです。今の自分にできることは、障害の有る状態を受け入れて、それを自分として生きていくことだと思います。
 私は小学校は通常の学校に通っていました。そのころから、自分が周囲とは「違っている」ことを感じさせられていました。しかし今では「違っている」という感覚に対して、これまでとは違うとらえ方をしています。大学生活は、自分の障害や弱い部分と向き合わされることで、限界を知らされるものです。それはけして悪いことではないと思うのです。障害も含めて自分自信なのだと思うようになったからです。
 二つ目は、高校時代の友人との繋がりです。高校の友人とは、大学に入ってからの方が繋がりが強くなりました。同じ障害でも、それぞれに困難さや工夫の仕方が違います。したがってまったく同じ境遇というわけではありません。しかし障害学生という立場は同じなのです。そのような友人と語り合うことがこころの支えとなっています。私にとって静かに大きな力になっているのです。

これから大学へ進む方へ

 大学生活は学びにおいても人間関係においても、たくさんの刺激に溢れています。そして大学という場は、自分自身でいくらでも学びを広げたり深めたり、人生観を豊かにできる時間なのです。好奇心の向くままに積極的に行動することで、実りあるキャンパスライフがおくれるのだと、実体験から思うのです。特に人間関係から生まれた刺激は、自分の生きる糧になっているといっても過言ではありません。そうした繋がりに感謝したいのです。
 私は「学びたい」という思いだけで大学に入りました。しかし進学を志す前には、視覚障害者としての将来という現実を考えて、他の分野に進もうとしていた時期もありました。その時に高校の進路の先生が語ってくださった言葉が、今の道に進む方向を示してくださいました。その言葉が私に、障害にとらわれることなく、将来を自由に描かせてくださいました。これから大学を目指す皆さんに、私からこのときの先生の言葉を送りたいです。
 「自分がやりたいと思うところに進みなさい。現実的なことを考えたとしても、やりたくなければ意味がない。」

脚注