丸山 真紀子(まるやま まきこ) 関東学院大学 文学部社会学科 2005年卒 肢体障害
95号 2017年3月20日発行 より
皆さんこんにちは。私は大学を卒業して10 年以上経ちますが、その時の仲間とは今でもつきあいが続いており、また大学時代の経験が現在の仕事にも活かされています。そんな楽しかった学生生活思い出しながら書いていこうと思います。実際と少し違う部分もあると思いますが、学生生活の楽しかった雰囲気が伝えられればなによりです。そしてみなさんにも楽しい経験をたくさんしてほしいと思います。
私が通っていた高校からは、同じ大学に進学した生徒がいなかったので、まずは新しい人間関係作りからのスタートでした。大きな大学なので、入学式は、当時5つほどあった学部の1年生が集まり、1つの場所で一斉に行いました。そのため、何人かのグループで入学式に出席していれば話もできるでしょうが、一人きりで出席している私には、知り合いを作るまでの時間も気持ちの余裕もなかったので、入学式では知り合いが全くいない状態でした。 入学式の翌日からは、キャンパスでのガイダンスなどがありました。しばらくは友達ができなかったので、このまま4年間友達ができないまま通うことになるのではないかという不安がありました。大学は高校までと全くシステムが違います。高校では生徒が固定された教室でクラスごとに分かれていて、授業ごとに先生が入れ替わります。しかし大学では授業に合わせて学生が教室を移動します。この点が高校とは1番大きな違いだと思います。また高校での担任に当たる役割をするのは教務課で、伝達事項も掲示板に貼り出されたものを各自で確認しなければならないというシステムなのも、高校とは違います。初めの頃は戸惑いがたくさんありました。 すでに在籍していた障害者の学生もいましたが、大学の中で障害者に対応するシステムが確立されているというわけではなく、必要に応じて対応を変えているような感じだったので、私自身が不都合を感じた時には教務課で相談していました。ただ、大学に入ったばかりの頃は、困ったことがあっても直接自分で教務課に話をしに行くことができず、親に教務課と話してもらい、私が困ったときに相談できるように、専属で窓口になる人を決めてもらいました。専属の人が決まったおかげで、たとえば私が確認しなければならない掲示物が掲示板の上の方に貼ってあるのを、見やすい位置に貼り直してもらうなど、教務課に行って相談できるようになりました。そうなってからは特に問題も起きなかったので、順調にキャンパスライフを楽しめたような気がします。
私の所属する学科は社会学科でしたが、社会学専攻と社会福祉学専攻に分かれていましたので、車いすに乗っている私にも自然と目が行く学生が多かったような気がします。入学してまだ日の浅い4月後半にパソコンの課外授業がありました。この授業は少人数なのでお互いに話もしやすく、一人の友達と仲良くなりました。その後その友人を通じてだんだん友達が増え、予想以上に入学後の早い段階で親しい友人がたくさんできました。はじめのうちは教室の移動が多くて大変というイメージがありましたが、実際には友人たちが困った時にすぐに手伝ってくれたり、教室の移動を一緒にしてくれたりと、思ったよりも大変ではありませんでした。講義によってはほかの学年の学生と親しくなる機会もあったので、高校までとの違いは大変なだけではなく、楽しい部分でもありました。 私は障害のため筆記に普通の人の2倍以上の時間がかかるので、中学と高校ではクラスメイトが授業中に取ったノートを、授業が終わってからコピーさせてもらって勉強していました。今ではノートテイクなどの障害学生支援のための仕組みがある大学も多いですが、私が在籍していた当時、この大学にはまだそのような仕組みがありませんでした。そこで自ら友達に理由を話して、高校までのようにノートをコピーさせてもらっていたので、講義の内容に遅れずについていくことができました。大学の試験は記述によるものが多いので、先生にも障害のために筆記に時間がかかることを伝えて、記述量が少ないことを理解してもらいました。学校は頑張りが認めてもらえる所なので、できないことはきちんと理由を伝えて、そのうえで努力する姿勢を見せることが大切だと思います。
私は大学に入るまで特にやりたいこともなく、学部選択の際にも、何となく他の分野よりは少し関心があった学科を選んだ程度でした。社会学科だったので、1~2年生の間は社会福祉学に限らず、社会学も含めて概論を学ぶ講義が多かったです。いろいろな分野の入り口の部分を学んでいくうちに、福祉のことをもっと勉強したいと思うようになりました。2年生の終わりにゼミを決める時、研究内容や担当の先生の人柄、ゼミの雰囲気などから、障害者福祉のゼミに希望を出しました。友達の中にも同じゼミを希望する人が何人かいたので、一緒に頑張ろうと話しあって希望届を書いたのを今でも覚えています。 障害者福祉のゼミは、3年生と4年生でそれぞれ12名ほどの学生が所属していました。人数があまり多くないことから3・4年生合同でゼミ合宿をしたり施設見学や国際福祉機器展に行ったりしました。 また4年生の時の卒業論文だけでなく3年生の時にも論文を書いたので、それぞれの論文提出の2ヶ月ほど前に中間発表会の合宿も行いました。一人ずつ順番に論文のテーマと概要を発表し、それについて先生や他のゼミ学生から意見をもらうというものでした。他の人の論文の内容についてはなかなか聞く機会がありませんし、それが自分の論文の構想をまとめるのに役立ちました。また先生や先輩、同級生から自分の論文に対する意見をもらえたので、提出前に考え直したりさらに内容を掘り下げたりして、論文を完成させるのにとても良い機会になりました。 勉強ばかりを一緒にしていたわけではなく、夏休みの合宿や卒業する時の追いコン(追い出しコンパ)も3・4年生合同でやりました。また卒業してからも先生の退職記念パーティーや食事会をしたりしています。
私は高校まで福祉について何も知らなかったので、大学に入ってから学んでいく中で「社会福祉士」という資格があることを知りました。社会福祉士の受験資格を取るために履修しなければならない科目がたくさんあったので、1~3生までほぼ毎日通学していました。また図書館司書の資格も取ることにしたので、3年次に社会福祉士のための講義を中心に取り、4年次に司書課程で取りきれなかった講義を取って、結果的には卒業までほぼ毎日学校に行っていたような気がします。 履修科目の中に、福祉施設で実習する講義もありました。実習先を決めるところから始まり、実習をして現場を学び、実習後には経験したことの振り返りを他の実習生たちと共有する、というものでした。私は施設や相談機関で実習することができたので、社会福祉士の受験資格も在学中に取得することができました。 4年生になるとほとんど単位が取れていて、最低限の講義のためにしか大学に行かず、就職活動に力を入れる人も多いですが、私は毎日1・2科目ずつ講義があったので、空いている時間は社会福祉士の資格試験の受験勉強をしていました。大学内に「福祉実習室」という、福祉関係の資料が置いてあったり、過去の実習記録が閲覧できたり、自習できるスペースもある教室があったので、空き時間はそこで勉強したり、福祉担当の教務課の人に質問したりしていました。調べ物がある時には大学の図書館も利用しました。
3年生から就職活動を始める学生がほとんどですが、私の場合は学業と就職活動を両立させる余裕がありませんでした。在学中は時間の取れる夏休みや春休みの時期だけ就職のためのセミナーなどに行って、それ以外にはほとんど就職活動はできませんでした。私が両立させるのが苦手なことと、焦って就職するよりは長く勤められるところをじっくり探すことに、両親も理解を示してくれていたので、卒業する時に就職先は決まっていませんでしたが、特に焦りもしませんでした。4年生の1月に社会福祉士の国家試験に挑戦しましたが、卒論などもあって思うように勉強が進まなかったので、残念ながら不合格でした。卒業までに就職は決まっていませんでしたが、4年間の学生生活を共に過ごした友人たちと卒業旅行でハワイに行ったり、高校の時の友人たちと沖縄に旅行に行ったりと、学生時代の締めくくりとして楽しい思い出を作ることができました。 これは私の個人的な意見ですが、世の中の流れとしては、障害者雇用促進法のような法律が作られていたり、法定雇用率を達成していない企業には罰則が設けられていたりするので、障害者雇用が進んでいるように考えられていると思います。しかし、障害者の中には内部障害やペースメーカーをつけている人など、一見すると健常者とあまり変わらないような人も多いです。そうした中で、私の障害のように筆記に時間がかかるのは就職の際には不利になると思います。また車いすを使用していることで、エレベーターやトイレなどの設備が整った企業にしか応募できないので、健常者のように「高望みをしなければどこかに就職できる」というわけではないことを、実感しました。卒業後に障害者の就労支援センターに登録し、担当者と相談して、いくつか書類選考や面接も受けましたが、内定を取るまでには至りませんでした。 このまま就職先が決まらないのではないかという不安も少しありましたが、学校に通わない分時間はたくさんあったので、近所の図書館で社会福祉士の資格のための受験勉強を続けました。就活は思ったように進みませんでしたが、受験勉強にはたっぷり時間をかけることができたので、翌年の国家試験には無事合格できました。そして社会福祉士の資格が取れたことで、障害分野の福祉施設に事務としての内定をもらい、卒業してから1年2か月後に就職することができました。 現在は当時就職したところとは別の、障害分野の事業所で仕事をしています。どちらの仕事場でも大学で学んでいた知識を活かすことができています。また大学でできた友人の中には同じような分野に就職した人も多く、仕事での境遇が似ているので共感しあえる部分があり、今でも話が弾んで楽しく過ごしています。私は中高一貫校に通っていたので、高校まで6年間一緒に過ごした仲間と会えばそれなりに楽しいです。しかし同じ興味のある分野で大学時代を共に過ごした友人には、高校までの仲間とは少し違う楽しさがあるような気がします。
障害があると人と同じようにしたくても、どうしても思い通りにならないこともあると思います。私自身仕事をしている今も言えることですが、出来ない部分を考えるのではなくて、代わりにできることを見つけることのほうが大切だと思います。上手くいかないと思って壁にぶち当たることもあると思いますが、学生のうちにしか経験できない楽しいこともたくさんあるはずですし、学生だからこそ思う存分悩む時間も取れると思います。大学に通い始めたばかりの方だけでなく、すでに在学中の方も、いろんな経験を通して、学生生活を実りあるものにしていただければ嬉しいです。