雪 琢馬
今回の情報誌で紙面は最後となります。2016年から毎回「共にいきる」を書かせていただきました。読者の皆様には深く御礼申し上げます。ウエブ版になっても「共にいきる」の連載を継続してまいります。引き続きよろしくお願いいたします。
共にいきるでは様々な事を書いてきましたが、紙面の最終回として教育のことに触れようと思います。先日久しぶりに教育関係の講演会の講師の依頼がありました。 コロナ渦になる以前は毎年のようにインクルーシブ教育の講演や大学での授業の講師をやらせていただく機会があり、障害者権利条約からインクルーシブ教育について、日本の障害児教育の歴史を現状、いじめや道徳の問題など様々なテーマでお話させていただきました。 今回依頼いただいた講演は教育だけでなく自分の私生活含めた内容でしたが、自分が教育について語るのは約4年ぶりでしたので、不登校の現状を調べてみました。不登校はコロナ前の講演でも扱ったテーマです。コロナ渦以前は小学生~高校生の不登校の人数が20万人前後であった記憶しています。しかしながら今回改めて不登校の人数を調べたところ、およそ41万人に増加していることが判明しました。次のグラフは文部科学省のHPの「令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」を基に作成しています。
不登校の人数が40万人以上の数値にも驚きではありますが、さらに驚いたことがあります。コロナ過が始まった2020年度からの増加率が一気に高まったということです。グラフでも2020年度を境にグラフの傾きが変わったのがおわかりいただけるかと思います。具体的にはコロナ渦前の前年度に比べての増加率は平均5%に対し、コロナ渦以降は平均16%と11ポイントも差が出ており、一番高い増加率は2021年度の24%、翌22年度は22%と特にこの2年は20%超えていることがわかりました。最新のデータの2023年度の数値では小学生が約13万人、中学生が約22万人、高校生が約7万人の不登校の生徒がいると示されました。
これらの数値から読み取れることは、40万人以上の子どもたちが現状の学校教育制度に「NO!」と意思を示しているのではないかということです。自分が不登校の実態を全て把握しているわけではないのですが、不登校になる理由はさまざまであると考えます。 自分の場合、中学時代が一番しんどかった時期でした。その理由として学力不振、同級生からのいじめ、教師による差別がありました。当時は自分に自信がなく、正直に言えば学校に行きたくありませんでした。しかし不登校に対するイメージが悪く、また障害があるゆえに不登校になるとさらに自分の存在価値を下げてしまいそうで、無理してでも登校していました。その結果、自己肯定感を下げてしまったという過去があります。 自分は中学校の成績はよくありませんでした。しかし学校で学べる分野以外に得意分野を見つけて、今はその得意分野を活かし仕事や生活しています。現在の学校教育の制度や学ぶ内容が社会に直結するかと言われたら決してそうではありません。だから、今あの時を思うと、無理して学校に登校しつづけたことが正解だったのか、疑問に感じています。
40万人の不登校の生徒がいることは、現在の学校教育制度に対して多くが「NO!」と言っているように感じます。また現に学校に通っている生徒も含めて、多くの子どもたちが今生きづらさを感じているのではないでしょうか。中学以降は授業で習ったことを覚え、試験で覚えたことを発揮して、その結果が成績に反映されます。成績が悪いとまるで人生の烙印を押されたような感じがするかもしれません。しかし現代社会において、何かを覚えてそれを試験で発揮することは必要なのでしょうか?自分は疑問に感じます。 現代はスマホやタブレットが普及してなんでもすぐ調べることができます。そのような時代に、覚えて暗記するといった教育が必要なのでしょうか?これまでの教育を全否定するつもりはありませんが、スマホ等を活用する勉強の方が、いまの社会に役に立つのではないかと思います。また昨今はSNSで若者が闇バイトに応募する問題、匿名で他人を誹謗中傷するなど様々な問題があります。こうしたことを教育内容へ転換するのがいいのではないでしょうか? さらに自分は教育の多様化が必要と考えています。コロナ渦になるまでは公立学校をはじめ社会全体的に「授業は学校(塾)へ通ってその場で行うこと」が当たり前で、学校に行かないと授業が受けられないという認識でした。しかしコロナ渦が始まった2020年には、短期間でリモート授業が導入されて、自宅から授業が受けられることが証明されました。これは画期的な出来事だったのではないかと考えています。その後は公立学校では対面授業に戻りましたが、大学や学習塾においては現在もリモート授業を実施しているところがあります。例えばリモート授業専用の公立学校があれば、子どもたちの選択肢は広がるのではないでしょうか。 子どもたちにとって居やすい環境づくりを行い、内容的にも制度的にも新しい教育が必要なのではないかと、この不登校生徒急増の数字から改めて思っています。