先輩からのメッセージ これまで歩んできた道~山口 冬馬さんインタビュー~<

話し手 山口 冬馬(やまぐち とうま)
  所属:福井工業大学
障害:発達障害(ADHD、自閉症スペクトラム)
聞き手:瀬戸山 陽子

写真:山口 冬馬さん

122号 2024年1月20日発行 より


今回インタビューを受けてくださったのは、現在福井工業大学4年生の山口冬馬さんです。インタビューはzoomを使って行い、こちらからいくつか質問する形で進めました。

Q1.今回はインタビューをお引き受けいただきありがとうございます。まず、進路をどのように選ばれたのでしょうか?
A1.高校入る時も、大学入る時も、流れるままという感じだったかもしれません。地元を離れる気はなかったので、家から通えるところからという理由で、高校や大学を選んできました。
今の大学を選んだ理由としては、自分の学力に合ったところを探している中で、福井工業大学が私立の中でも障害に対する支援がしっかりしているという話を高校の担任の先生や周りの先生方から伺ったことです。それがあって、最終的に進学先を福井工業大に決めました。
自分の障害に関しては、ADHDと自閉症スペクトラムのどちらももっています。普段の生活の中で苦労することはあまりないのですが、自分を曲げられないところがあって、それが原因で兄弟と言い争いになったりすることはありました。あとは多少他人の目が気になって行動ができなくなることがたまにあるくらいです。小学生の時に担任の先生から母親がそうなのではないかと言われて、病院に行ったら診断されたということを聞いています。なので、大学進学にあたっても支援があるかどうかは自分にとっては大事でした。

Q2.高校での勉強や受験勉強の際に、これが難しかったといったことがありましたか?
A2.障害のためなのかは分からないのですが、勉強をしていると集中力が途切れてしまう場面が多くありました。あとは、そもそも勉強までたどり着けなかったり、集中できなくて、そもそも勉強を始められなかったりすることがあったので、そこは苦労したところです。
ただ、授業中の勉強だけでも、ある程度内容は理解することはできていたので、そこまで受験勉強や普段のテストが出来なくて困るということはなかったように感じています。

Q3. 実際に福井工業大に入学されてから、授業で配慮を受けたことはありますか?
A3. 実際には授業の配慮は受けていないのですが、福井工業大に合格が決まった後、高校の先生と母親と自分と大学の先生で顔合わせの会があり、その時に障害のことを伝えました。伝えたことで、最初の頃は授業選択に際して何か不安がないかという連絡を頂いていましたし、授業担当や学年担当の先生方には、自分のことを知っていてもらっていました。直接授業において具体的な配慮は必要なかったのですが、少なくとも、自分のことを知ってくださる先生がいるという安心感はありました。

Q4.今4年生ということで、在学中はオンライン授業が多かったと思うのですが、オンライン授業はいかがでしたか?
A4. オンライン授業は良くも悪くも一方通行だと感じていました。先生方は、授業ごとにそれぞれ出席確認の意味もあって課題を課すんですが、それを少しほったらかしにしていたら、どんどん課題の数が増えてしまって結構大変だと思ったことがあります。先生によって、その日の授業の内容を含めて1,000字以内で感想を書くという課題があったり、提出期限も、その日のうちだったり1週間後だったりと、人によりとてもばらつきがありました。オンラインだと周囲の人に聞きにくいこともあるので、全体のスケジュールや方法などを管理するのが結構大変だと感じていました。

Q5.就職活動の時に大学の障害学生支援の窓口を利用したとのことですが、具体的にはどのようなかかわりがあったのでしょうか?
A5. 自分としては、その時期になっても就活の始め方が分からず、どうしようかと悩んでいました。そんな時に支援室の先生からお声掛けいただいて、工業大学で障害のある人を対象にしたセミナーを開催するので、それに参加してみないかと言われました。
内容は、DMM.comさんの会社に行って、障害のある人が行う仕事の内容だとかを見学したりしました。また、障害のある人の就職支援をしている団体の方が、仕事や支援の流れを話してくれたことがあります。
それまで、そもそも就職活動に関してあまり興味がなく就職に関する情報も全く知らなかったのですが、実際の様子を見て、現実的に感じることができ、結構大変なんだなということも知ることができたという感じです。
でもそういう機会をもらえたので、今は来年春からの就職を決めることができました。最初に障害学生支援室の方から声かけがなかったら、今ももしかしたらどうすればいいんだろうと悩んでいた可能性もあると思っています。声をかけてもらったことで、背中を押されました。

Q6.ずっと授業や就職の話をしてきましたが、それ以外のことで大学時代印象深かったことなどがあれば教えて下さい。
A6 一番記憶に残っているのは、毎年、大学の文化祭の時に、障害をもっていて支援室を利用していたOB・OGの方々が集まる会を大学が開いていて、それに参加した時のことですね。普段はなかなか直接会って話を聞く機会はないのですが、その時は、支援室を利用していたOB・OGの人たちで社会人として働いてる人の生の情報を伺うことができて、とても面白い機会だったと思っています。
支援室にOB・OGの人が集まるという機会は、他の学校でもあまり聞いたことがないので、うちの大学の先生がそういった機会を作ってくれているのかなと思います。

Q7. 障害の有無にかかわらず、これから大学で学ぼうと思っている学生さんに、何かメッセージがありますか?
A7. 大学は、高校とは良くも悪くも学ぶ内容も形式も大きく変わります。時間も、日によっては昼から学校に行く日もありますし、時間の管理も、全く違っていました。また高校の場合はそれまでの地元の知り合いなどもいると思いますが、大学行くと、それまで一緒だった人ともバラバラになってしまうことも多いです。さらに大学自体、様々な地域から進学してきているので、文化の違いもありますし、特に福井工業大は留学生が多かったので、これまでとは違う人たちの中で過ごすことにおいて不安を感じることもありました。
でもそんな中、自分にとっては、何かあったらここに駆け込めばいいと思える場所として、支援室があったのはとても良かったです。困ってからではなくて、困る前に、こういう時にはここに相談しに行けばいいという場をあらかじめ確認しておけたことで、大学生活を楽に過ごせたように感じています。
日常的に不安があって、それをどこで解決できるかが分からないとパニックになりそうになると思うのですが、そういう場合は、あらかじめ「ここに相談できる」という場を見つけておくと安心だし、何かあったら実際に相談したら良いので、楽かなとは思っていました。これから学ぶ人たちも、そういう窓口とつながれたらと思います。

Q8. 近い将来でも、ちょっと遠い将来でもいいんですけど、この先、山口さんとしてはどんなふうに過ごしていきたいなどあれば、聞かせてください。
A8. 自分自身は、障害自体も言ってみれば軽度という状態ですし、小学生くらいからなので物心ついた時から、障害があるというのも分かっていて、生活できないわけではないという感覚でした。でもやはり人によっては日常生活を送るだけでも大変という人もいて、自分自身も、もしそうだったらどうしようと考えることがあります。そういう意味で、障害のある者としては、何か障害のために困っている人の力になればと思って、今回もこうやってインタビューに参加させて頂きました。
自分としても、なかなか自分のことを知ってもらうことや人を勇気づけるようなことは簡単にはできないのですが、それでも、こういう機会があって少し嬉しい思いでいます。機会があればぜひ今後も、具体的な方法は色々だと思いますが、何かを行うことで、障害のある人が生きやすくなるようなことに貢献できたらと思っています。

結びに変えて
今回お話を伺った山口さんは現役の学生さんということで、とてもリアルな学生生活のお話を伺うことができました。特にコロナ禍でのオンライン授業の話は印象的でしたし、就活に際して支援室とどのように関わりがあったかという話も、具体的に教えて頂きました。これらの話は、いま現役の学生さんや、これから大学進学をしたいと思っている方にとても参考になるように思います。今回は貴重なお話を聞かせていただき本当にありがとうございました。