先輩からのメッセージ 「生きづらさ5冠王の体験談」から考える自分らしい生き方とは?

生きづらさ(難さ)コンセルジュ 一般社団法人生きづらさインクルーシブデザイン工房 代表理事
大橋 史信(おおはし ふみのぶ)
知的障害・広汎性発達障害

イラスト:大橋 史信さん
大橋 史信さん

115号 2022年3月15日発行 より


 読者の皆さん、初めまして。大橋史信(おおはしふみのぶ)といいます。
 私は、1980年に東京都文京区の核家族(父母兄)の次男として、この世に生を受けました。
 自分は、『いじめ・不登校、家族との確執(無関心によるコミュニケーションが上手くいかないなど)、知的障害をベースとした大人の発達障害、ひきこもり、ワーキングプア』の生きづらさ5冠王として、生きてきました。
 現在は、生きづらさ5 冠王当事者としての視点・経験を活かし、今までの社会経験を活かしながら、生きづらさ、しんどさ、さまざまな困難を抱えた児童期から壮年期のご本人とその家族に対して、教育、就労、家族関係などをテーマに全国各地で講演、支援活動を行っています。
 その中で「自分らしい生き方」を考える視点を、「ひとり暮らしの挑戦」と「書籍の発刊」の経験を通じて、読者の皆さんに伝えていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

40歳にして人生初のひとり暮らしに挑戦

 私は2020年大みそかに、親からの自立を目指して、40歳にして初めてのひとり暮らしをすべく、小学3年生から暮らしていた実家を出て「共生ハウス西池袋」(豊島区池袋)に引っ越しをしました。私にとって一昨年は「自身の活動環境の変化 (独立起業)」、「父との別れ」があり、自身の人生と向き合い続けなければいけない局面の連続の1年でした。特に「父の死」は大きく、自分を縛り続けていた価値観等からの開放、安心感がありました。しかしその一方で、俗にいう7040/8050問題親なき後の当事者としての不安・恐怖が、今まで以上に一気に押し寄せてきたので、非常につらかったし、どうしたらいいか判らず、途方に暮れる日々を送っていました。
 ただ、今までと違ったのは、その感情等を素直にありのまま母親に思いっきりぶつけてみることが出来たことでした。そうすることで自分の気持ちに変化が起こり始めました。「家族(特に母親)が健在で、動けるうちに、自立の練習に取り組まないとどうにもならないかもしれない。今が最初で最後のチャンスかもしれない、失敗してもいいから動くしかない」とやる気スイッチが入りました。これは、「感情の吐き出し、整理の時間」が大事であることの再認識でもありました。
 ただ、いきなり1人暮らしをするのは難しいので、その準備として、「自身の受容のブラッシュアップ、経済的安心感を得ることから取り組むことにしました。具体的にはヘルプマークカードを付けること、障害者手帳の再取得、障害者年金の申請等で、自信をつけていきました。そしていよいよ「家を出る」という時になり、自身の覚悟と実現に向けた協力を外部に求めていくと、不思議なもので、情報が入ってきたり、応援してくれる方が現れました。私にとってそれが、共生ハウス西池袋を管理・運営している一般社団法人コミュニティネットワーク協会との出会いです。出会いは、豊島区が主催した居住支援法人の活動に関する勉強会で、そこから契約・入居まで1カ月半、一人暮らしに踏み出すことができ、1年1カ月つづきました。(現在は母親に余命宣告が出て見守り等が必要になり、実家に戻り生活しています)
 一人暮らしの体験から、特に家族を含めた人のありがたみ (=人薬)、経済観念(=生活費、収入の得方)等の大切さを痛感し、学ぶことが出来たと思っています。これは、実際に一人暮らしを目指して動き、その実現によって家族と適正な距離が出来たからこそ見えてくるものだとも思います。そのことも踏まえ、最後に自分が一連の体験から考える「生きづらさを抱えた本人が、自立を考える際のポイント」を述べたいと思います。
(ポイント)
・ひとり暮らしを応援してくれる仲間を見つける。
・失敗しても痛手が大きくないことから始めてみる。 (例: 自炊等、家事力をつける。仲間内の経験者にひとり暮らし体験を聞く。住居に関する情報収集してみるなど)
・自分自身のひとり暮らしの生活をイメージする。そのために、①ファイナンシャルプランナー等の力を借りて家計簿/キャッシュフロー表の作成をし、生活費/お金の課題を可視化してみる。②その上で、自分にあった収入方法を考えてみる。③家族会議を行って考え方をそろえていく。
上記のようなポイントが上げられます。そしてなによりも大切なのは、何のために自活をするのかという自分の気持ちと、タイミングを活かすことだと私の経験から思います。少しでも私の体験が、皆さんの自分らしい自立(1人生活)を考える際の参考になりましたら幸いです。

なぜ『生きづらさの生き方ガイド』を発刊したか?

 読者の皆さんの中には、生きづらさの当事者・経験者の方がおられると思います。そして、自身と同じような立場にある方(「生きづらさ」を抱えた当事者)とその家族の声を聴いてみたい、交流したいと思ったことはありませんか? または自分の「生きづらさ」についてどの相談窓口や支援団体に行って、どのように相談したり利用したらよいか判らず、困り果てたという経験をしたことはありませんか?
 また、支援活動をされている方は、対応のあり方をどう考え、実践していけばよいのか判らず困ったということはなかったでしょうか?
 私自身も「不登校・ひきこもり・発達障害・家族との確執・社会参加、就労困難者」という生きづらさを抱えながらも、当事者経験者の活動家として、さまざまな社会経験をしてきました。その経験を踏まえ当事者自らが考える「支援のあり方」、「生き方」、「欲している支援情報」について発信している書籍があってもよいのではないかと考え、本書を発刊する運びとなりました。
 「生きづらさ」に関する書籍は多くありますが、それらの本と本書の違う点は、3点です。
 1点目は、「生きづらさの専門家」は、生きづらさを抱えた本人とその家族であるので、彼ら彼女らの生の声、活動を軸に内容を構成している点です。
 2点目は自分が抱える「生きづらさ」と共に、「自分らしい生き方」を考えるためのコツや情報を、本書一冊でわかるようにしている点です。
 3点目は、当事者経験者の活動家と支援者(家族関係心理士)が、協同して書き起こし、編集している点です。
 具体的には、この一冊で「関わり方・支援のあり方、ご本人体験インタビュー、ご家族体験インタビュー、困りごと別活動団体・相談窓口、親なき後対策を掲載しています。

読者へのメッセージ

 実社会では、「生きづらさ/生き難さ(がたさ)」は、誰にでも起こりうる社会情勢だと私は思います。
 本人や家族の努力などの問題ではなく、社会側の問題です。その社会側に合わせるのではなく、たとえ生きづらさを抱えたとしても「ありのままの自分」を大切にして欲しいと私は考えます。
 よく言われる言葉で、「この世の中乗り越えられない試練はない。他人と過去は変えられない。変えられるのは自分と未来」というのがあります。それは決してひとりで抱え込んで、すべて自分で対応しなさいということではないと私は考えています。
 自身の経験から、生きづらい状態からの回復には、人薬(人っていいな、頼って力を借りてもいいのだと気づくこと)と時薬(自身の生きづらさに対する理解、対応等の説明書作成に必要な時間のこと)が重要だと感じています。
 ぜひご自身のタイミング、やり方で結構ですので、人と関わり、もまれる中で、苦しくても少しずつ生きていく術(すべ)を身につけていってください。そして相談できる仲間、機関などと繋がり、利用してみてください。
 私も同じ生きづらさを抱えた当事者の先輩として、これからも自身の生きづらさと共に、自分のペースで、自分らしい「生き方」を模索し続けていきたいと思います。
 最後に、以前全国障害学生支援センターで行っていた「障害をもつ学生交流会」のボランティアとして参加したことがご縁で、今回情報誌に寄稿する機会をいただきました。スタッフの方、また寄稿文を読んで下さった皆さんに心より感謝をこめて、お礼を申し上げます。
 本寄稿文に関する問合せ、感想・ご意見 並びに 個別相談、講演依頼等随時受け付ております。下記までお手数ですが、お問合せ下さい。
◇ひきこもりピアサポーター/生きづらさ 難さ(難さ)コンシェルジュ
◇一般社団法人 生きづらさインクルーシブデザイン工房 代表理事